GDC2019でGoogleから新たなクラウドゲーミングサービス「Stadia」が発表されました。概要についてはGIZMODEの記事がわかりやすいので詳しくはこちらをどーぞ。
Stadiaを耳にした際にに真っ先に頭に浮かんだのはスクエニが子会社を設立してまで立ち向かった「シンラテクノロジー」でした。
シンラテクノロジーは2014年に設立され、思わずニヤリとしてしまうネーミングからも話題になりましたが、残念ながら実際にサービスインすることなく2016年には20億円の特損を出し会社ごと清算する運命をたどりました。また同じく2016年にはG-clusterを当初提供していた「Gクラスタ・グローバル」社も債務超過に陥り倒産しています。現在はブロードメディアの子会社が事業を引き継いでいます。具体的に何にどれくらい資金を注ぎ込んだのかは公表されていませんが、クラウドゲーミングはとにかくお金がかかると認識させられたのをよく覚えています。
Google先生の膨大な資金力があれば会社毎逝くことはないでしょうが、事業単体では巨額の赤字を抱えて死ぬのではという未来が頭をよぎって仕方ありません。
目次
何にお金がかかるのか
前提
まず大前提として、スマホアプリやPCなどでネットワークを利用したゲームを開発する場合、以下のようなクライアント・サーバ型の構成になることが多いわけですが、
クラウドゲーミングの場合は以下のようなイメージにになるわけです。
めっちゃ雑ですみませんw
クライアントからユーザーの操作情報(どのボタンを押したかなど)を送信し、サーバ側でゲームに関わるすべての処理を行い映像にします。この映像をクライアントに向かってストリーミングし続けるというのが大雑把な仕組みです。
インフラ費用がもりもり
ここまででピンと来た方も多いと思うのですが、大きく2点。
レンダリング
これまでのクラウドゲーミングでは、高性能サーバにグラボを挿して実現していたので1台がかなり高価。サーバ用のグラボ(NvidiaならTeslaとか)は個人だと血反吐をはくお値段w それが横にずらっと並ぶわけです。
参考程度ですが、現在TeslaV100をGCPで導入する場合の料金は、オレゴンリージョンでは約1,267ドル/月(1ドル110円だと139,370円)となっています。これはGPUのみの料金でここにサーバや回線費用が乗ってきます。もちろん1台で運用することは考えづらいのでサービスがスケールするに従い横に増えます。
ちなみにTeslaV100を購入する場合、Amazonだと約130万円程度(配送料は無料)。これのダッシュボタンを連打して遊べるくらいの富豪になりたいものですw
…というかAmazonでポチる人おるんかw
StadiaではAMD製のカスタムGPUを使用するとの公式発表がありますが、具体的なスペックや価格についてはまだ公開されていないようです。
回線費用
常に動画を垂れ流すわけですので通信量(=通信料)も膨大になります。仮に1人あたり1Mbpsだったとして同時接続100万人なら1Tbpsの回線が必要となるわけです、下りだけで。USENで下り1Gbps,100Mの帯域保証を付けると月間で約30万円らしいのですが、これの1000倍をかけた金額が毎月かかるとか(^q^)
同時接続100万とかありえるのか?というと大人気バトロワのPUBGが1年以上達成しているというのが以前話題になっていました。1タイトルでこれです。こういったビッグタイトルを複数抱えたら…。
なおGDCの会場では25Mbpsで接続されていたとのこと。
とりあえずSTADIAを体験。Chromebook、有線LANでのインターネット接続で基本25Mbpsで動いているとのこと。安定して動いてましたが、回線状況の良さを加味して考えると遅延も含めて既存のNVIDIA GRIDと似たレベルに感じました。サービス規模が一番の勝負所なのかも pic.twitter.com/uUjKyh8HLD
— あるしおうね (@AmadeusSVX) 2019年3月23日
どこで収益を得るのか
基本無料は厳しいか
スマホゲームで一般的な『基本無料』のF2P方式は難しいかもしれません。
スマホアプリの場合、AppStoreやGooglePlayからダウンロードさえしてしまえば後はプレイヤーの端末内で処理され、サーバとは必要最小限の通信しか発生しません。もちろんユーザーが数万、数十万人と集まればバカになりませんが、大量の無料ユーザーを抱えても成り立つ程度のコストで抑えることが現状はできています。
ところが先に述べた通りクラウドゲーミングは1人あたりのコストがとてつもなく高い。
サーバ側ですべての処理を行い、さらに常に映像を垂れ流す関係上、F2Pで成立させるためには課金者数を増やすか、課金単価(ARPPU)を上げるしかありません。
広告モデル
Stadiaの発表の数日前である3月14日にGoogleから以下のような発表がありました。
Google Admob(ゲーム内広告を表示する仕組み)の新機能である「スマートセグメンテーション」です。これは機械学習によりアプリ内課金をしないと予測されるユーザーにのみ広告が表示され、課金が予測されるプレイヤーには表示しないという「区別」(セグメンテーション)を行うもの。
発表されたタイミングではちょっと唐突感があったのですが、もしかしたらStadiaへの伏線かもしれませんね。Googleと言えば当時大赤字でどうやって収益化するんだろうと絶望視されていたYouTubeを買収し、その後見事に黒字化を果たした実績もあります。このときも広告収入が大きかったと言われています。
GMailやGoogleDriveなども基本無料で展開し支持を集めたてきたように、世界でも類まれな規模のインフラによるコストの低減、すでにAdWordsやAdSenseへの広告出稿者を持つGoogleであれば、広告モデルでF2Pを実現することも長い目で見れば可能なのかもしれませんね。
有料モデル
GIZMODEに予想記事があがっていますが、
GoogleがStadiaの価格設定に対応するには2つの方法があります。1つは、Stadiaをゲーム用の一種のNetflixと位置付けることです。毎月の購読で、タブレットやラップトップなどで遊ぶことができるゲームリストにアクセスできるようになります。
もう1つの選択肢は、Stadiaを無料もしくはかわずかな低価格で利用できるようにして、代わりにSteamのようなStadiaストアでゲームを購入するようにすることです。
で、Googleの新ゲームサービス「Stadia」にいくら払う?
現在日本でも提供されているPlayStationNowやGクラスタは月額定額となっています。AmazonのFireTVやFireStick用に提供されているタイトルでは買い切りの物もあります。コントローラが必要がですがFF13などが現在もプレイできます。この買い切りモデルの面白いところは時間制のお試しができるところ。これはクラウドゲーミングならではかもしれません。
Googleの親会社(持株会社)であるAlphabetの決算によると、2018年度は売上高が1368億ドル(およそ15兆円)の企業にとっては先行投資も可能なのかもしれませんが、控え目に言って安くはない投資のハズです。特に今回はネットワークの距離を出来うる限り短くするとの発表もあったのもそれを伺わせています。
また試験的なサービスの場合、有料化することでユーザー数をある程度抑えることも可能です。ノウハウを蓄積してから広く開放すると言ったことも考えられるでしょうか。
機械学習用の教師データの収集?
Googleはすでに機械学習を様々なサービスに実戦投入していることでも知られていますが、もしかしたらAI用のデータとして利用するのかもしれませんね。
ゲームがクラウド化すると人間側の操作も全部記録できるので機械学習用の教師データを全部Google側が取得出来て最強のAIプレイヤーが爆誕しそう
— GOROman (@GOROman) 2019年3月20日
Webサービスなどのログイン時によくある、ロボットでない場合はチェックすることで人間と判定するreCAPTCHはGoogleが提供している技術ですが、何らかの条件がそろうと画像を選択するように迫られます。例えばクルマや信号などの画像を選ばさせられた方も多いのではないでしょうか。一見すると認証行為の一つにしか見えませんが、機械学習用の教師データの入力をさせられているとも言われています。
これにより画像認識の技術が向上すれば、例えば画像処理はもちろんGoogleが開発中の自動運転などに活かされることでしょう。このようにGoogleはあらゆるデータを取得し、他のサービス改善につなげることを以前から行っています。
今回のクラウドゲーミングにおいても同様に、映像と人間の入力のデータを機械学習に活かせば、チェスや将棋用のAIにとどまらず新たな何かが生まれるかもしれません。
ゲーム開発者から見たStadia
物によるのかもしれませんが、これまでのクラウドゲーミング用のゲームの開発は考え方としては非常にシンプルで、特定のOS上で動作するアプリケーションを開発するだけでした。WindowsであればEXEファイルを作成して置いておくだけ。製品によってはブラウザ上で動作するゲームをストリーミングさせることも可能です。
ユーザーからの入力についても一般的なコントローラやキーボードの入力として処理することができるように設定がされているようです。AAA級のタイトルであれば、CPU/GPUなどのきめ細かい処理を定義することで、インフラコストを抑えるといったテクニックも必要になってくると思われます。
開発側として気になるのはインフラコストを誰がどれだけ負担するかなんですよね。
もし事業者が負担するのであれば、Stadiaに出せるタイトルは超大型タイトルなどに限られてくるのではと思われます。プラットフォームとして成立させるためにGoogle社が最初は誘致活動を積極的に行ってくれる可能性ももちろんありますし、AndroidのGooglePlayのように30%持っていかれるようなモデルで済むのかもしれません。蓋を開けてみないことにはなんとも言えませんが、パブリッシュするかどうかはここの話が重要なポイントになってくる気がしています。
あとTwitter上でよく見かけるフレーム遅延の問題ですが、以下のような先読みを行う解決策もあったりします。
STADIA、1フレームの遅延も許せない用途には無理じゃね?って言われてるけど、これにはMicrosoft Researchが以前答え出してて、次フレームに起きることを予測してあらかじめ全パターン描画して送って実際の入力に応じてその中から結果を選んで表示すれば実質遅延ゼロというスーパー脳筋メソッドがある
— Lyna / Swanman (@lynatan) 2019年3月19日
で、もちろんこんなことしたら大量の処理能力やトラフィックが発生しますので、より大きなコストとの戦いになるのではないでしょうかw
現在の技術である程度形にすることはできるのでしょうが、果たして事業として成立しスケールできるのか…今後の発表を期待して待ちたいですね。
参考ページ
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